名古屋高等裁判所 昭和25年(う)2074号 判決
弁護人A、B提出の各控訴趣意書の各要旨は何れも、本件のレールは被告人が其所有者に於て既に抛棄したものと信じて持去つたものであるから他人の所持を奪う犯意なく無罪である。仮りに有罪としても賍品は既に被害者に返還せられ、被告人は右レール引揚げの費用を損失した次第であるから原審の量刑は酷に失する
と謂ふにある。
検事は控訴理由なしとして棄却の判決を求めた。
依つて按ずるに、原審引用挙示の各証拠に依れば本件のレールは富士産業株式会社所有の物で被告人は昭和二十五年八月十日頃之を持去り他に売却したことが認められるが、右は果して同会社の所持に属していたか否かに就て審究するに、原審並に当審の検証調書及び竹内秀吉に対する当審証人尋問調書の各記載に依ると、本件のレールは元富士産業株式会社所属造船所の設備の一部であつて、公共の水面たる半田市大字乙川字五丁浜地元の通称阿久比川と称する河底に敷設せられてあつたものであるが、昭和二十四年初め頃右造船所が廃止せられ、其建物並に敷地共当時他に売却せられ、既に何等の形骸を止めていないのであるが右レールだけは費用の関係等で其儘放置せられ、これを管理保管する者も無く、被告人が之を引揚げて持去る迄約一ケ年半の間放置せられてあつたので、遂に河底に埋没し僅かに其先端一二尺のみが河底に露出していて、既に腐蝕しかかつていたことが認められる。
以上の事実に基いて考察するに、右レールは富士産業株式会社の所有に属する物ではあるが、既に其所持を離れた所謂占有離脱物であつたことが認められる。また原審第一回公判調書中被告人の供述記載に依つても、被告人は他人の所持を奪う意思なくして右レールを引揚げたことが認められるから、以上何れの点から看るも、被告人の本件所為は窃盗罪として問擬することのできない性質のものである。故に此点に於て本件控訴は寔に理由があるが翻つて司法警察員作成の被告人の供述調書(記録十三丁)の記載に依ると、被告人は本件のレールが何人かの所有に属し且つ其占有を離脱していることを認識の上、本件の所為を為したことが認められるから、右は明に刑法第二百五十四条所定の占有離脱物横領罪に該当するものと謂ふべく、従つて被告人が無罪であると謂う論旨は理由がない。